ベトナムでは、野生動物の違法な捕獲や取引、消費への対策が、生物多様性を守るうえで重要な課題となっています。野生動物やその部位・加工品が食用や伝統薬として売買されるほか、生きた動物がペットとして取引されるケースもあり、消費者への啓発から犯罪への対応、法制度の整備まで幅広い対策が必要です。
こうした違法な野生動物取引の削減に長年取り組んできた団体の一つが、「Education for Nature – Vietnam(エデュケーション・フォー・ネイチャー・ベトナム、以下ENV)」です。ENVは市民への情報発信に加え、野生動物犯罪の通報受付、行政・捜査機関への支援、関連法制度の改善などを進めてきました。
本記事では、ENVの主な活動や参加・支援方法、これまでの実績について紹介します。
目次
ENVとは?
ENVは、2000年に設立されたベトナムの非営利団体です。野生動物保護を主な目的とするベトナム初の非営利組織として設立され、現在はハノイを拠点に活動しています。創設者で現在も代表を務めるVu Thi Quyen(ヴー・ティ・クエン)氏は、クックフオン(Cuc Phuong)国立公園周辺で地域向けの環境教育に携わった経験をもとに、ベトナム人が主体となって継続的に環境教育を進めるためENVを立ち上げました。
設立当初は、国立公園や自然保護区における環境教育を中心としていました。その後、経済発展に伴う野生動物の消費拡大を背景に、2004年から違法な野生動物取引への対応を強め、2007年以降は、政策・法制度、法執行機関への支援、市民への啓発という3分野を軸に活動を展開しています。
ENVの取り組み紹介
1.野生動物の消費削減に向けた啓発活動
ENVは、野生動物やその加工品を購入・消費しないよう市民に呼びかける啓発活動を展開しています。テレビ、ラジオ、SNS、学校や大学でのイベントなど複数の媒体を活用し、クマの胆汁、トラの骨、サイの角、パンゴリンなどをめぐる違法取引の問題を伝えてきました。
短編の啓発動画も継続的に制作しています。2026年4月には、カメをペットとして飼うため、または野外に放すために購入する行為と違法取引との関係を伝える62本目の動画を公開しました。さらに同年9月18日には、絶滅危惧種の売買や所持に伴う法的責任をテーマとした63本目の「Livestream(ライブストリーム)」を発表しています。
2025年には、SNS上の広告や投稿を通じて1,800万人以上に情報を届けました。また、20のテレビ局で3本の啓発動画が放映され、ベトナム国営ラジオ「Voice of Vietnam(ボイス・オブ・ベトナム)」では472本の広告が放送されています。
2.野生動物犯罪への対応と法執行機関への支援
2005年、ENVは野生動物犯罪への対応を専門とする「Wildlife Crime Unit(ワイルドライフ・クライム・ユニット)」を設置しました。同年には、違法な販売や飼育、輸送などを市民が知らせることのできる無料の全国野生動物犯罪ホットライン「1800-1522」も開設しています。
通報を受けると担当者が内容を確認し、必要に応じて森林保護当局や警察などの関係機関へ情報を共有します。その後も処理状況を確認し、押収された動物を救護施設へ移送する必要がある場合には関係機関を支援するなど、一つの案件を継続して追跡する仕組みです。各案件の経過は、ENVのオンラインデータベースに記録されています。
さらに、飲食店、ペットショップ、伝統薬店、市場なども調査対象としています。違反が確認された場合は関係当局へ対応を求め、一定期間後に再調査し、改善状況まで確認しています。
3.政策・法制度の改善
違法取引を長期的に抑えるため、ENVは政策や法律の改善にも関わっています。2008年には法制度を専門とするチームを設け、野生動物保護に関する法律の抜け穴や運用上の課題を分析。政府機関への提言に加え、野生動物犯罪を扱う捜査機関、検察、裁判所への法的な情報提供も行ってきました。
2026年4月には、野生動物の違法取引対策として10項目の重点課題を公表しています。国際的な密輸ネットワークへの対応をはじめ、オンライン上の野生動物犯罪、クマの胆汁採取を目的とした飼育、外来種取引、野鳥の違法取引、消費需要の削減などが対象です。
ENVへの参加・支援方法
各活動への参加
ENVでは、市民が野生動物保護に関わるための複数の方法を用意しています。
野生動物犯罪の通報: ベトナム国内で違法な野生動物の販売、飼育、輸送、オンライン広告などを発見した場合、ホットライン「1800-1522」またはオンラインフォームから情報を提供できます。緊急性の高い案件については、ホットラインへの連絡が案内されています。
ボランティア活動: ENVのボランティアは、飲食店やペットショップ、伝統薬店などで違法な野生動物取引がないか確認するほか、過去に違反が報告された場所の継続的なモニタリングや地域での啓発イベントにも参加しています。
企業・団体との連携: 企業や学校、団体は、ENVとのパートナーシップや啓発イベント、チャリティー企画などを通じた協力が可能です。過去にはランニングイベントやサイクリング、商品販売などを通じた資金調達も行われています。
寄付による支援
ENVは、野生動物の違法取引対策を継続するため、寄付による支援を受け付けています。寄付は、市民への啓発や野生動物犯罪への対応をはじめ、ENVが進める違法な野生動物取引対策を支える資金となります。
ENVの実績と信頼性
ENVは2000年の設立以降、20年以上にわたり野生動物の違法取引対策を継続しています。Wildlife Crime Unitでは、2025年12月までに3万4,000件を超える野生動物犯罪案件を記録し、確認された違反行為は10万件以上にのぼりました。2025年だけでも3,284件の通報案件と1万1,556件の違反を扱っています。
市民参加の規模も広がっており、2025年12月時点で33省・市から1万1,000人を超えるボランティアがENVのネットワークに登録しています。主要9都市ではボランティアクラブへの研修や支援も行われ、地域での監視と啓発を支える体制が築かれてきました。
活動状況や野生動物犯罪の動向については、「Wildlife Crime Bulletin(ワイルドライフ・クライム・ブレティン)」などの各種調査報告書を公開しています。2026年にも、違法なカメ取引やクマの胆汁採取を目的とした飼育などを対象に、具体的なキャンペーンを展開しています。
参考元:
- 「Education for Nature – Vietnam」公式サイト:Public Awareness & Education
- 「Education for Nature – Vietnam」公式サイト:Law Enforcement Support
- 「Education for Nature – Vietnam」公式サイト:Policy & Legislation
基本情報・問い合わせ
- 公式サイト(ベトナム語):https://thiennhien.org/
- 公式サイト(英語):https://env4wildlife.org/
- Facebook: https://www.facebook.com/EducationforNatureVietnam
まとめ
野生動物の違法取引は、動物を捕獲する現場だけで完結する問題ではありません。商品を購入する人、違反を目にする市民、取り締まりを担う行政機関、法律を運用する司法機関など、さまざまな立場の人や組織が関わっています。
野生動物を守るためには、違法な商品を購入しないことに加え、問題を発見した際の通報や正確な情報の共有も重要です。こうした一人ひとりの行動を社会全体の保護活動へつなげていくことが、野生動物の違法取引を減らすうえで重要な一歩となります。




