日本では、シングルマザーをはじめとするひとり親家庭を支えるNPOの活動が広がっています。仕事と子育てを一人で担う家庭では、収入の不安定さや生活費の負担、子どもの教育費、相談相手の不足など、さまざまな課題が重なることがあります。
こうした状況に対し、食料の提供、就労・キャリア支援、子育て支援、生活相談などを通じて、親子の暮らしを支える団体があります。近年は、目の前の生活を支えるだけでなく、保護者の就労環境を整え、子どもの教育や体験の機会を守るなど、貧困の連鎖を防ぐための取り組みも進められています。
本記事では、日本でシングルマザーやひとり親家庭を支援するNPOとして、特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ、特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパン、認定NPO法人フローレンスの3団体を紹介します。それぞれの活動から、親子の生活を支え、将来の選択肢を広げるための取り組みを見ていきます。
目次
シングルマザーを取り巻く現状
日本のひとり親家庭では、就業していても経済的な余裕を持ちにくい状況が課題となっています。こども家庭庁が公表している令和3年度全国ひとり親世帯等調査によると、母子世帯の母親の就業率は86.3%でした。一方、母親自身の平均年間収入は272万円、うち就労による平均年間収入は236万円にとどまっています。
また、厚生労働省の2025年国民生活基礎調査によると、2024年の子どもの相対的貧困率は11.0%でした。子どもがいる現役世帯のうち、大人が一人の世帯では44.7%となっています。この指標はすべての母子世帯だけを対象としたものではありませんが、ひとりで子どもを育てる家庭が直面する経済的な課題の大きさを示しています。
背景には、仕事と育児の両立の難しさがあります。子どもの送迎や急な体調不良への対応などにより、働ける時間や仕事の選択肢が制限されることがあります。非正規雇用や短時間勤務などの働き方では、収入を増やしたくても十分な就労時間を確保できない場合があります。
さらに、経済的な困難は子どもの生活にも影響します。習い事や学習塾、進学に必要な費用、スポーツや文化活動への参加など、家庭の経済状況によって経験できる機会に差が生じることがあります。親の収入や生活環境が子どもの教育機会に影響し、その後の進路や将来の選択肢にもつながることが、貧困の連鎖に関わる重要な課題です。
ただし、シングルマザーであること自体が貧困を意味するわけではありません。家庭の状況や必要な支援は一人ひとり異なります。大切なのは、ひとり親家庭が抱える負担を個人だけの問題とせず、働き方、子育て、教育、地域とのつながりなど、社会全体で支える仕組みを整えることです。
貧困の連鎖を防ぐためにNPOが果たす役割
シングルマザーを支えるNPOは、行政の制度だけでは対応しきれない生活上の困りごとに寄り添う役割を担っています。支援内容は団体によって異なりますが、経済的な支援に加え、就労、子育て、教育、相談などを組み合わせている点に特徴があります。
一つ目は、日々の生活を支えることです。食料や日用品の提供は、家計の負担を軽減する直接的な支援になります。食費を抑えられれば、その分を学用品や衣類、交通費など、子どもの生活に必要な支出へ充てられる可能性があります。
二つ目は、保護者の就労と自立を支えることです。仕事に必要な資格やスキルの取得、キャリア相談、就職活動のサポートなどは、将来的な収入の安定につながります。また、病児保育などの子育て支援が利用できれば、子どもの体調不良による欠勤や収入減少の負担を和らげることにもつながります。
三つ目は、孤立を防ぎ、必要な支援につなぐことです。仕事と子育てに追われる中で、相談する時間や機会を確保しにくい家庭もあります。NPOによる相談窓口や交流の場は、保護者が安心して悩みを話し、制度や地域の支援につながる入口になります。
こうした取り組みは、目の前の困難を軽減するだけでなく、親子が将来に向けた選択肢を持てる環境づくりにもつながります。貧困の連鎖を防ぐためには、生活支援、就労支援、子どもの成長を支える取り組みを継続的につなげていくことが重要です。
団体ごとの具体的な取り組み
ここからは、シングルマザーやひとり親家庭を支援する3つのNPOを紹介します。それぞれの団体は、就労と生活相談、食料支援、病児保育と政策提言という異なる視点から、親子の暮らしを支えています。
特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ

特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむは、シングルマザーと子どもたちが生き生きと暮らせる社会を目指し、就労支援、生活相談、子育て支援、交流活動などを行う団体です。1980年に児童扶養手当制度の改善を求める当事者の集まりとして発足し、その後、活動の幅を広げてきました。
同団体の特徴は、シングルマザー自身の経験や声を大切にしながら、生活の安定と社会参加を支援している点です。相談や交流の機会を提供するだけでなく、仕事に必要なスキルの取得や資格取得など、将来の収入の安定につながる取り組みも行っています。
たとえば、企業と連携したキャリアアップ支援プログラムや、パソコン操作、ITスキルなどの習得を支える活動があります。また、家庭の事情や妊娠・出産によって高校卒業をあきらめた母親に向けて、高等学校卒業程度認定試験の合格を支援する「きらりチャレンジ」にも取り組んでいます。
ひとり親家庭では、就職や転職によって収入を増やしたくても、学歴や資格、職務経験が壁になることがあります。学び直しやスキルアップの機会を提供することは、保護者の仕事の選択肢を増やし、経済的な自立に向けた一歩を支える取り組みです。

また、同団体は電話やメールによる生活相談のほか、シングルマザー同士が交流できる「ママカフェ・ほっとサロン」も開催しています。こうした場では、仕事や子育て、家計、将来への不安などを話し合い、同じような経験を持つ人とつながることができます。
シングルマザーの中には、仕事と子育ての両立に追われ、地域の人と交流する機会が限られる人もいます。相談や交流の場があることは、孤立を防ぎ、必要な情報や支援を得るうえでも重要です。悩みを共有できる相手がいることで、自分や子どもの将来について考える余裕が生まれることもあります。
さらに、同団体はひとり親家庭の生活や就労に関する調査、政策提言にも取り組んでいます。当事者の声を社会に届け、制度の改善を働きかける活動は、個々の家庭を支えるだけでなく、ひとり親家庭を取り巻く社会環境を変えることにもつながります。
しんぐるまざあず・ふぉーらむの取り組みは、相談、学び直し、就労支援、交流、政策提言を組み合わせて、シングルマザーの生活と将来を支える事例です。目の前の困りごとへの対応と、長期的な自立支援の両方を大切にしている点に特徴があります。
参考リンク
・しんぐるまざあず・ふぉーらむ 公式サイト
・団体概要・活動紹介
・相談窓口の案内
特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパン

特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパンは、国内外で子どもの貧困や教育、生活環境の改善に取り組む国際協力NGOです。日本国内では、経済的に困難な状況にあるひとり親家庭を対象としたフードバンク「グッドごはん」を2017年から運営しています。
「グッドごはん」は、所得などの利用条件を満たすひとり親家庭に、食品を無料で配付する取り組みです。首都圏、近畿、九州に配付拠点を設け、個人や企業からの寄付を活用しながら、子どもたちの食生活を支えています。
配付する食品には、お米やパン、麺類などの主食に加え、調味料、レトルト食品、肉や魚、野菜、果物などがあります。団体の公式サイトによると、通常の配付では1世帯当たり約1万円相当の食品を提供しており、栄養バランスや調理のしやすさにも配慮しています。
食料支援が重要なのは、食費が家庭の生活費の中でも欠かせない支出だからです。家計に余裕がないとき、保護者は自分の食事を減らしたり、子どもの食事を優先してほかの支出を削ったりすることがあります。食品を受け取ることで日々の食費の負担が軽減されれば、学用品や衣類、教育に必要な費用などに家計を回せる可能性があります。
また、グッドネーバーズ・ジャパンは、学校給食がなくなる長期休暇中の食生活にも注目しています。夏休みや冬休みは、家庭で準備する食事の回数が増えるため、経済的に困難な家庭では食費の負担が大きくなる場合があります。
2026年の夏には、通常の食品配付に加えて、お米、肉、魚、冷凍野菜、冷凍フルーツなどを届ける特別配付を実施しました。こうした取り組みは、給食のない期間も子どもが安心して食事をとれる環境を支えるものです。
さらに、同団体は食品を手渡す際のコミュニケーションも大切にしています。ひとり親家庭では、家計の困難だけでなく、相談相手が少ないことや社会的な孤立が課題になる場合もあります。食品配付を通じて継続的なつながりを持つことは、支援を必要とする家庭を見守るきっかけにもなります。

グッドごはんの活動は、企業や個人からの食品・資金の寄付、ボランティアによって支えられています。食品を提供する企業にとっては、社会貢献の機会になるとともに、状況に応じて食品ロスの削減につながる場合もあります。さまざまな立場の人が協力することで、より多くの家庭へ支援を届ける仕組みがつくられています。
グッドネーバーズ・ジャパンの取り組みは、食料支援を通じて、親子の生活を直接支える事例です。子どもの成長に欠かせない食事を守ると同時に、家計の負担を軽減し、家庭が将来に向けた選択肢を持てるよう支えています。
参考リンク
・グッドネーバーズ・ジャパン 公式サイト
・国内ひとり親家庭のためのフードバンク「グッドごはん」
・2026年夏休み特別配付の活動報告
認定NPO法人フローレンス

認定NPO法人フローレンスは、子育てや保育、親子の孤立など、さまざまな社会課題の解決に取り組む団体です。ひとり親家庭に対しては、病児保育を利用しやすくする支援や、子育て家庭への生活支援、政策提言などを行っています。
フローレンスの特徴は、子育てと仕事の両立を妨げる課題に対して、具体的なサービスをつくり、社会の仕組みを変える取り組みを進めている点です。特に、子どもの急な病気が保護者の就労に与える影響に注目してきました。
シングルマザーが仕事を続けるうえで、子どもの体調不良への対応は大きな課題の一つです。子どもが熱を出して保育園や学校に行けなくなった場合、保護者は仕事を休まなければならないことがあります。欠勤が続けば収入が減少したり、職場での立場が不安定になったりする可能性もあります。
こうした課題に対応するため、フローレンスは2008年に「寄付によるひとり親支援プラン」を開始しました。寄付を原資として、ひとり親家庭が低料金で病児保育を利用できる仕組みです。子どもの病気と仕事の両立に悩む家庭を支え、保護者が安心して働き続けられる環境づくりを目指しています。
公式サイトによると、2026年3月末までに、このプランを通じて延べ2,099名のひとり親家庭の子どもに病児保育を提供しています。子どもが体調を崩したときに頼れる保育サービスがあることは、保護者の就労を支えると同時に、家庭の収入の安定にもつながる重要な取り組みです。
また、フローレンスは、経済的な困難などを抱える子育て家庭へ食品を届ける「こども宅食」にも取り組んでいます。食品を届けることをきっかけに家庭との継続的なつながりをつくり、困りごとが見つかったときには必要な支援先へつなぐ仕組みです。

さらに、子どもの体験機会を広げる「こども冒険バンク」などの活動も展開しています。家庭の経済状況によって、子どもが習い事やレジャー、文化活動などを経験する機会に差が生じることがあります。こうした体験格差を小さくすることも、子どもの成長や将来の選択肢を支える取り組みの一つです。
フローレンスは、個々の家庭への支援に加え、制度の改善に向けた政策提言も行っています。過去には、児童扶養手当の第2子以降の加算額の改善を求める活動や、離婚が成立していないものの実質的に一人で子育てをしている家庭への支援の必要性を訴える活動を進めてきました。
公的な制度の対象から外れてしまう家庭や、必要なサービスを経済的な理由で利用できない家庭に対して、支援の仕組みを広げることは重要です。個別の支援だけでなく、制度そのものの改善を働きかけることで、より多くの親子が安心して暮らせる環境づくりにつながります。
フローレンスの取り組みは、病児保育による就労支援、生活支援、子どもの体験機会の確保、政策提言などを組み合わせた事例です。保護者の仕事と子育ての両立を支えることで、親子の生活の安定と将来の選択肢を広げることを目指しています。
参考リンク
・認定NPO法人フローレンス 公式サイト
・ひとり親家庭支援
・病児保育「ひとり親支援プラン」
貧困の連鎖を断ち切るために必要なこと
シングルマザーやひとり親家庭の支援を考えるうえでは、目の前の生活を支えることと、将来に向けた環境を整えることの両方が重要です。食料や日用品の提供は、現在の生活を支えるために欠かせません。一方で、安定した仕事や子育て支援、子どもの教育機会などが十分に確保されなければ、経済的な困難が長期化する可能性があります。
そのため、NPOによる支援では、さまざまな取り組みを組み合わせることが求められます。就労支援によって保護者の収入が安定しても、子どもの病気や保育の問題によって働き続けることが難しければ、生活の安定にはつながりにくくなります。また、食料支援によって一時的に家計の負担が軽減されても、教育費や住居費などの課題が残る場合があります。
今回取り上げた3団体にも、それぞれ異なる役割があります。しんぐるまざあず・ふぉーらむは、相談や学び直し、就労支援を通じて保護者の自立を支えています。グッドネーバーズ・ジャパンは、食品の配付によって生活を直接支え、家計の負担軽減に取り組んでいます。フローレンスは、病児保育や子育て支援、政策提言を通じて、仕事と育児を両立しやすい環境づくりを進めています。
こうした支援が行政や学校、企業、地域団体などの活動とつながることで、親子をより多面的に支えることができます。たとえば、食料支援を必要とする家庭が、同時に就労相談や教育費の支援にもつながれるようになれば、困りごとを一つずつ解決するだけでなく、生活全体を支えることにつながります。
また、支援を必要とする人が相談しやすい環境づくりも欠かせません。経済的な困難を抱えていても、周囲の目が気になったり、制度を知らなかったりして、支援につながれない家庭があります。必要なときに相談できる窓口や、安心して参加できる交流の場があることは、孤立を防ぐためにも重要です。
さらに、子ども自身の学びや体験の機会を守る視点も必要です。経済的な状況によって、学習や進路、スポーツ、文化活動などの選択肢が狭まらないようにすることは、将来の可能性を広げることにつながります。
貧困の連鎖を断ち切るためには、一つの団体や制度だけで課題を解決しようとするのではなく、生活、就労、子育て、教育を支える多様な取り組みをつなぎ、親子が必要な支援を受けられる社会をつくることが大切です。
まとめ

シングルマザーを支えるNPOの活動は、生活に困っている家庭への一時的な支援にとどまりません。就労や子育て、食料、教育、相談など、さまざまな課題に向き合いながら、親子が安心して暮らせる環境づくりを進めています。
特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむは、就労・キャリア支援や生活相談、交流活動を通じて、シングルマザーの自立と孤立の防止を支えています。特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパンは、フードバンク「グッドごはん」を通じて、経済的に困難な状況にあるひとり親家庭へ食品を届けています。認定NPO法人フローレンスは、病児保育や子育て支援、政策提言などを通じて、親子の生活と就労を支えています。
貧困の連鎖を防ぐためには、保護者が安心して働き、子どもが十分な食事や教育、体験の機会を得られる環境が必要です。そのためには、家庭だけに負担を求めるのではなく、行政、NPO、企業、地域社会が連携し、それぞれの立場から支援を続けることが重要です。
シングルマザーやひとり親家庭を支えることは、子どもたちの未来を支えることにもつながります。親子が孤立せず、必要な支援につながりながら、自分たちの希望する暮らしや将来を選べる社会をつくることが、貧困の連鎖を断ち切るための大切な一歩となります。