近年、アジア各国では持続可能な成長を見据え、人材育成や教育機会の拡大が社会基盤の強化に直結するテーマとして注目されています。若年人口が多いベトナムでは高等教育への需要が高まる一方、制度整備の遅れや地域間の学習環境の格差が依然として残っています。こうした環境のなかで、外部からの継続的な教育支援は若者の学習機会を確保するうえで欠かせない存在となっています。
日本はアジア地域で長年教育協力に携わってきました。その蓄積もあり、ベトナムでも民間企業や財団、NPO、公的機関など多様な主体が連携しながら教育支援を展開しています。こうした取り組みは、若者の自律的な学習環境づくりに寄与するとともに、両国の人的交流や社会経済の発展に対して中長期的な価値をもたらしています。本記事では、教育機会の拡大に向けた日本の3つの支援事例を取り上げ、その意義を整理します。

ベトナムにおける奨学金制度と教育環境の課題
ベトナムでは高等教育への関心が高まる一方、地域差による費用負担の偏りが依然として大きく、特に地方出身の学生にとって進学は大きなハードルとなっています。授業料や生活費に加え、家計では吸収しきれない諸費用が発生することで、教育機会の公平性が確保しにくい状況が続いています。
また、奨学金や留学制度に関する情報は都市部に集中し、地方では必要な情報にアクセスしづらく、制度を利用する機会が限られがちです。情報格差が制度利用の機会を狭め、留学へのハードルを心理面でも高めている状況です。こうした背景を踏まえると、進学を後押しする外部支援が一段と重要性を増しています。以下では、その課題に向き合う日本の支援団体の事例を紹介します。
事例①:FR財団 ― 次世代リーダーを育てる包括的奨学金モデル

FR財団(Fast Retailing Foundation)は、ファッションブランド「ユニクロ」などを展開する「ファーストリテイリング」が社会貢献事業として設立した民間財団で、学生が進学時に直面する経済的負担を大幅に軽減する奨学金制度を展開しています。授業料から生活費、渡航関連費用まで対象とする支援により、学びの継続に必要な要素を総合的にカバーする仕組みです。ベトナム出身の学生を対象とした奨学金制度も設けられ、年間約10人が日本の大学へ進学しています。またこのプログラムでは、成績だけでは捉えきれない学生の姿にも目を向け、社会課題へのまなざしや将来への展望といったその人らしさを踏まえ、多面的に可能性を評価する柔軟な選考方針が採用されています。
奨学生は海外での学修に加え、メンターとの対話や同世代との交流を通じて多様な価値観に触れ、新しい挑戦へとつながるネットワークを形成します。これらの経験が積み重なることで、若者が自ら道を切り開き、将来の社会を担う人材へと成長していく基盤が築かれていきます。
参考リンク
・FR財団の活動詳細:FR財団のコミュニティ支援
事例②:AEFA ― 地域に根ざした教育基盤づくりと継続支援

アジア教育友好協会(AEFA)は、東南アジアの農村部で学校建設を中心に、学びが続く環境づくりに取り組んできた団体です。教室整備や教員育成など、現場に寄り添った支援が特徴で、ベトナムではドンズー(Dong Du)日本語学校と連携し、「青葉奨学金」を通じて授業料の負担軽減に加え、生活面の支えや学習習慣の形成まで視野に入れた支援を実施しています。
奨学生の前向きな姿勢は周囲にも波及し、地域全体の学習意欲を高める動きを生んでいます。こうした小さな変化の積み重ねが教育格差の緩和やコミュニティの活性化につながり、持続的な成長を支えるモデルとして注目されています。
参考リンク
・AEFAの活動詳細:AEFAの教育⽀援プロジェクト
事例③:JASSO ― 公的立場から支える信頼性の高い情報基盤

日本学生支援機構(JASSO)は、公的機関として奨学金制度や留学情報を体系化し、学生が必要とする知識に確実にアクセスできる情報基盤の整備を担う組織です。情報発信の多言語化や相談体制の強化など、進路選択を支える施策も幅広く展開され、ベトナムでは現地事務所を通じて教育機関との連携を一段と深化させています。また、留学手続きや生活準備への支援に加えて、将来像に関する相談にも対応し、海外進学に伴う不安には経験に基づく助言で寄り添う体制を整えています。
こうした取り組みは金銭的支援とは異なる角度から教育機会の拡充に寄与し、都市と地方に見られる情報格差の縮小にもつながる活動です。長年蓄積されてきた信頼が公的機関としての安定した運営を支える基盤となり、若者が安心して挑戦へ踏み出せる環境づくりへと結びついています。
参考リンク
・JASSOの活動詳細:JASSOベトナム事務所公式サイト
今後の展望:人材循環が導く日越教育連携の深化
日越の教育連携は、奨学金に留まらず、大学間の共同研究や企業との協働プログラム、インターンシップ、リスキリング研修など、多様な領域へ広がっています。オンライン教育の普及も地方の学生に学びの機会をもたらし、国境を越えた知識の共有を加速させています。
こうした動きを支える基盤となるのが「人材循環(Brain Circulation)」の概念です。海外で得た知識や技術、国際的なネットワークを帰国後に地域社会や産業界へ還元し、継続的な交流を通じて新たな価値が生まれるという考え方です。従来の「留学して帰国する」という一方向の枠を超え、知見が人材交流の中で循環する構造が特徴となります。
奨学金制度が提供する学習機会は、この循環の起点となり、ベトナムの持続的な人材育成を支える土台として機能しています。教育連携の深化とともに、人材循環は今後その重要性をいっそう高めていくと考えられています。
まとめ:教育支援が築く持続可能な未来

日本の企業や財団、公的機関による教育支援は、奨学金制度や地域に寄り添った伴走支援、信頼性の高い情報提供を通じて、ベトナムの若者が学びを継続できる環境づくりに寄与する取り組みです。本記事で紹介したFR財団、AEFA、JASSOの取り組みは、それぞれ異なる立場から教育機会の拡大を支えるモデルとして位置づけられます。
日本とベトナムの多様な主体が連携を深めることで、人材育成の循環はさらに深化し、地域社会の発展を支える基盤も一層強固になります。今後も官民が協働し、多面的なアプローチを重ねることが、教育格差の縮小と持続可能な成長の実現に向けた重要な鍵となります。