ベトナムで広がる犬猫食禁止運動。動物保護が社会を変える3つの現場

近年、アジア各国で犬猫肉の取引をめぐる議論が活発化しています。動物福祉への意識の高まりや公衆衛生上のリスク、そして観光産業への影響を背景に、各国で法規制や啓発活動が進められています。その流れの中で、ベトナムでも犬猫肉の消費を見直す動きが広がりつつあります。「犬猫は人類の友であり、食べるべきではない」という考え方は、社会の価値観の変化を象徴しています。

近年のベトナムでは、犬猫を単なる家畜や食材ではなく、共に生きる存在として捉える人が増えています。都市部ではペット文化が広がり、SNSを通じた動物保護キャンペーンやボランティア活動も活発化しています。市民の意識変化が、国内外の団体による保護や教育の取り組みを後押しし、犬猫肉取引の廃止を求める運動をさらに広げています。

本記事では、ベトナム社会で進む犬猫肉禁止運動の現状と、現場で活動する団体の取り組みを紹介します。動物福祉と公衆衛生、そして社会意識の変化という3つの観点から、その広がりを見つめていきます。

目次
  1. 犬猫肉消費の現状と影響
  2. 国際・国内団体の取り組み
  3. 団体ごとの具体的な取り組み
    1. ① Humane Society International(HSI)
    2. ② Four Paws International
    3. ③ Paws for Compassion
  4. 今後の展望と連携の可能性
  5. まとめ

犬猫肉消費の現状と影響

ベトナムでは犬猫肉の消費が依然として存在し、動物福祉などに取り組む国際団体「ヒューメインソサイエティ―インターナショナル/Humane Society International(HSI)」の推計によると、年間およそ犬500万匹、猫100万匹が食用に供されるとされています。公衆衛生面でも懸念は大きく、WHOは毎年数十人規模の狂犬病死亡を報告しており、衛生管理の甘い取引は人獣共通感染症のリスクを高めます。

こうした状況を背景に、2018年にはハノイ市が犬猫肉の消費をやめるよう市民に呼びかける声明を発表しました。さらに観光都市ホイアン市では、2021年から犬猫肉提供店への規制を導入し、多くの店舗が姿を消しました。

参照元:「ホイアン:犬猫肉の取引廃止表明、国内初の都市に」Viet-Joニュース

国際・国内団体の取り組み

犬猫肉取引の廃止に向けては、国際的な支援とともに、ベトナム国内でも動物保護団体による取り組みが広がっています。国際NGOであるHSI「フォーポーズインターナショナル/Four Paws International」は、取引実態の調査、施設閉鎖支援、ワクチン接種の啓発活動などを通じて変化を促しています。

一方、ダナン市を拠点とする非営利団体「ポーズ・フォー・コンパッション/Paws for Compassion」は、救護や教育活動を通じて地域社会の意識向上に貢献しています。こうした国際団体と国内団体の連携により、ベトナムでは犬猫を命ある存在として守る文化が少しずつ根づきつつあります。

団体ごとの具体的な取り組み

ここでは3団体を例に取り上げて紹介します。それぞれが異なる立場から課題にアプローチし、互いに補完し合いながら、動物福祉の向上に貢献しています。

① Humane Society International(HSI)

画像引用元: HSI公式サイト

HSIは、世界各国で動物福祉を推進している国際NGOであり、ベトナムにおいても犬猫肉取引の根絶を目指した活動を進めています。同団体は「モデルズ・フォー・チェンジ/Models for Change」プログラムを通じて、犬猫肉農場や食肉店の閉鎖を支援し、関係者が新たな生計手段に転換できるよう支援しています。たとえば、ドンナイ省では20年以上営業していた犬肉レストランと屠殺場が閉鎖され、経営者が新しい職業に就いた事例もあります。

また、HSIは地方自治体とも連携し、狂犬病ワクチン接種キャンペーンや衛生教育などの活動を実施しています。こうした取り組みにより、公衆衛生の観点からも犬猫肉取引の縮小が進められており、動物保護と人間の健康の両立を目指す動きが広がっています。

参考リンク
・HSIの活動詳細:Humane Society International “Ending Viet Nam’s Dog and Cat Meat Trades”

② Four Paws International

画像引用元:FOUR PAWS公式サイト

Four Pawsは、オーストリアに本部を置く国際NGOであり、アジア各国で犬猫肉取引の実態調査や政策提言を進めています。同団体は、報告書「リトルタイガー/Little Tiger」を通じてベトナムの猫肉産業の実情を明らかにし、政府や自治体に対し、取引の禁止や規制強化を求めています。

さらに、ベトナム中部では「キャッツマタートゥー/Cats Matter Too」プロジェクトを展開し、無料の避妊去勢手術やワクチン接種、動物盗難防止の啓発活動を実施しています。こうした取り組みにより、Four Pawsは単に動物を救うだけでなく、政策・教育・地域社会を結びつけ、持続的な変化を生み出す役割を果たしています。

参考リンク
Four Paws Internationalの活動詳細:Four Paws International 「The Dog and Cat Meat Trade in Southeast Asia 2020」

③ Paws for Compassion

Paws for Compassionは、2015年にダナン市に設立されたベトナムの非営利団体です。路上や取引現場から救出された犬猫の保護、治療、譲渡を行うとともに、教育機関や地域社会と連携しながら、動物愛護や公衆衛生に関する意識向上を目指しています。

同団体は、地元の小学校や大学で講演やワークショップを開催し、子どもたちに命の尊さや責任ある飼育の大切さを伝えています。また、FOUR PAWSとの協働によって、ダナン、ホイアン、フエなどの中部地域で出張避妊手術やワクチンキャンペーンを実施しており、2023年には100匹以上の犬猫を救済しました。

こうした草の根の活動は、地域住民の理解と協力を得て進められており、ベトナム社会における動物福祉の定着に大きく貢献しています。

参考リンク

・Paws for Compassionの活動詳細①:The Pagoda PAWS Project: The new big and exciting PAWS project
・Paws for Compassionの活動詳細②:Rabies in Vietnam: The importance of vaccinating pets and banning dog and cat meat trade

今後の展望と連携の可能性

ベトナムにおける犬猫保護活動は、国内外の団体の努力によって確実に前進していますが、依然として課題も残されています。法律上の明確な禁止規定が存在しないことや、地方による対応の差、経済的要因などがその一因です。こうした課題を解決していくためには、動物福祉だけでなく、公衆衛生、教育、観光など多分野の連携が不可欠です。

今後は、国際団体と地方自治体、教育機関、企業が協力し、持続可能な仕組みを構築していくことが期待されます。たとえば、動物保護教育を学校カリキュラムに取り入れる試みや、観光業と連携した啓発キャンペーンの展開、地域住民を巻き込んだワクチン接種プログラムなどが考えられます。

また、動物福祉と公衆衛生を両立させる取り組みは、アジア諸国共通の課題でもあります。日本でも近年、「One Health(人・動物・環境の健康の連携)」という考え方が広がっており、行政や民間の分野で国際協力の機運が高まっています。こうした流れの中で、ベトナムの経験は地域モデルとして注目され、日本をはじめとする他国との連携強化が、アジア全体の動物福祉向上に寄与することが期待されます。

まとめ

ベトナムにおける犬猫肉取引廃止運動は、動物福祉・公衆衛生・観光イメージといった多面的な要因が複合的に作用しながら進展しています。国際団体であるHSIFour Paws、そして国内団体のPaws for Compassionなどがそれぞれの立場から活動を展開し、救護・教育・政策提言を通じて社会の意識変化を後押ししています。

これらの取り組みは、単なる動物保護運動にとどまらず、人と動物が共に生きる社会を実現するための基盤を築くものです。国際的な支援と地域社会の努力が相互に補完し合うことで、ベトナムでは犬猫を命ある存在として尊重する文化が着実に根づきつつあります。

この動きはアジア各国にも波及しており、日本をはじめとする多様な団体や企業による連携の可能性が、今後さらに高まっていくことが期待されます。