都市と地方の格差をなくす。ベトナムで広がる若者の地方定着を支える代表的な取り組み3事例

経済成長が著しいベトナムにおいて、依然として大きな課題となっているのが、大都市と地方における経済格差です。多くの若者が高収入とキャリアを求めて都市部へ流出する一極集中は、地方の労働力不足を加速させ、持続的な国家発展の足かせとなっています。この課題に対し、日本政府(ODA)や日系企業は、地方における産業基盤や人材育成の支援を通じて、若者が地元で働き続ける選択肢を広げる取り組みを進めています。

最新の取り組みでは、テクノロジーによる一次産業の近代化や、地方での高度教育、地場資源のバリューチェーン構築など、多角的なアプローチが展開されています。本記事では、地方のポテンシャルを引き出し、若者の定着を後押ししている3つの主要事例を紹介します。

目次
  1. 地方格差是正に向けた新たなパラダイムシフト
  2. 事例①:ヤンマー (Yanmar)― 技術導入を通じた地方産業の高度化と人材定着
  3. 事例②:パナソニック(Panasonic) ― 地域教育への投資と高度人材の地方定着支援
  4. 事例③:エースコック(Acecook) ― 地場サプライチェーンの構築と安定雇用
  5. 企業活動がつくる地方定着の循環
  6. まとめ:地域に根付く雇用が格差是正につながる

地方格差是正に向けた新たなパラダイムシフト

これまでの地方支援は、インフラ整備や単純な工場誘致が中心でした。しかし、教育水準が高まった現在のベトナムの若者にとって、それだけでは地元に留まる動機として不十分です。今求められているのは、高度なスキルを活かせる場と、都市部と同等のキャリア形成の機会です。

日本側は、日本の地方創生で培ったノウハウをベトナムに適応させ、最新技術と地場資源を掛け合わせることで、地方を衰退する場所からイノベーションが生まれる場所へと変容させようとしています。

事例①:ヤンマー (Yanmar)― 技術導入を通じた地方産業の高度化と人材定着

ヤンマー(Yanmar)」は、農業機械やエンジン、エネルギー関連機器を手がける日本のメーカーとして、長年にわたりアジア各国で事業を展開してきました。ベトナムにおいても、農業や水産業といった一次産業の現場に即した技術提供を行い、生産性向上や産業基盤の強化に取り組んでいます。特に水産分野では、漁業の近代化を通じて、地域経済の安定に寄与してきました。

地方における若者流出の要因の一つに、漁業をはじめとする伝統産業が「重労働で収益性が低い」というイメージを持たれてきた点があります。これに対し、ヤンマーは中部地域などで、漁船用エンジンや関連機器の提供、操業効率を高める技術支援を行い、漁業の生産性改善を後押ししてきました。加えて、漁獲物の鮮度を保ったまま流通させるための管理手法の導入支援などを通じて、付加価値の高い水産物の安定供給にも貢献しています。こうした取り組みは、JICAによる水産分野支援の流れとも方向性を共有する形で進められています。

これらの技術導入と現地人材への知識移転により、漁業は徐々に効率性と収益性を兼ね備えた産業として再評価されつつあります。現場では、機械や技術を扱う専門性の高い役割が生まれ、若年層が地元にとどまりながら働き続けられる環境が整いつつあります。一次産業の価値向上を通じて地域経済の持続性を高めるヤンマーの取り組みは、若者の地方定着を支える実践例の一つといえます。

参考リンク

「ヤンマー」公式サイト:ベトナムにおけるマグロ漁近代化支援プロジェクトの展開開始について

事例②:パナソニック(Panasonic) ― 地域教育への投資と高度人材の地方定着支援

パナソニック(Panasonic)」は、単なる製造拠点の運営にとどまらず、長期的視点で地方の学生を支援する「パナソニック奨学金」などを通じて、地域格差の解消に貢献しています。この取り組みの特徴は、地方大学の学生に対し、金銭的援助のみならず、技術教育やマネジメント研修を含む教育支援を行っている点です。

同社は地方の教育機関と密接に連携し、日本基準の技術教育カリキュラムを導入しています。これにより、地方出身の若者が大都市へ流出することなく、地元や近隣の工業団地において、国際基準の高度なキャリアを築ける土壌を整えています。学生たちは最新テクノロジーに触れる機会を地方で得られることで、「地元にいながら世界レベルの仕事ができる」という自信を深めています。

高度なスキルを持つ若者が地方に定着し、現地の産業をリードする存在となることで、地域全体の経済的底上げが実現されています。

参考リンク

「パナソニック」公式サイト:次代を担う若者たちの学びを支援~パナソニック スカラシップ アジア

事例③:エースコック(Acecook) ― 地場サプライチェーンの構築と安定雇用

エースコック(Acecook)」は、即席麺の製造・販売を通じて、ベトナム国内各地に生産拠点を展開しています。都市部に集中しがちな工場立地とは異なり、地方にも工場を配置することで、周辺地域の住民に安定した雇用機会を提供してきました。

同社は雇用創出にとどまらず、従業員教育にも力を入れています。現場での技能研修を通じて、製造技術の向上と安全意識の定着を図り、長期的なキャリア形成を支援しています。こうした取り組みは、単純労働にとどまらない就業機会を生み出し、地方人材の定着率向上に寄与しています。

また、地域社会との共生を重視し、教育支援や環境美化活動などのCSR活動も継続的に実施することで、雇用と社会貢献を両立させるモデルを構築しています。


参考リンク

エースコック」公式サイト:ベトナム・エースコック株式会社、ヴィンロン省に2億米ドル規模の新工場建設の起工式を開催

企業活動がつくる地方定着の循環

若者の地方定着を実現するためには、雇用の創出だけでなく、人材が地域の中で育ち、定着し続ける循環を形成することが重要です。企業が地方に拠点を設け、安定した雇用と研修制度を提供することで、若年層が地元で将来的なキャリアを描ける環境が整います。

こうした取り組みは、企業にとっても持続的な人材確保につながり、所得が安定すれば地域内での経済活動も活性化します。この循環が定着することで、地方経済の自立性が高まり、都市と地方の格差是正に向けた基盤が形成されていきます。

まとめ:地域に根付く雇用が格差是正につながる

都市と地方の格差は、所得水準だけでなく将来の選択肢の広さにも表れます。地方において安定した雇用と成長機会が確保されれば、若者が地元にとどまる強い動機が生まれます。

今回紹介した企業の事例は、事業活動と人材育成を通じて、地方の就業環境の改善に継続的に取り組んできました。こうした取り組みを地域社会と連携して仕組み化していくことが、より均衡の取れた社会の実現につながっていくと考えられます。