日本企業や国際的な企業グループは、ベトナムでの事業展開と並行して、地域社会への教育支援に取り組んできました。特に、都市部のスラム街や困難な家庭環境にある子どもたちに対する奨学金支援は、貧困の連鎖を断ち切るための重要な手段として位置づけられています。現在、ベトナムでは急速な都市化により所得格差が拡大し、教育アクセスの不均衡が顕在化しています。こうした状況は、子どもたちが学びを継続するうえで大きな障壁となっています。
これらの課題を踏まえ、企業のCSR(企業の社会的責任)活動や社会貢献財団の取り組みが拡大し、学費補助や学習環境整備を通じて教育機会の確保を図る動きが進んでいます。本記事では、ベトナム国内で実施されている奨学金支援の中から、特に成果を挙げている3つの事例を紹介し、取り組みの意義を考察します。

目次
スラム街の教育格差と支援の必要性
ベトナムの都市部では経済成長が続く一方、スラム街や非正規居住地域に暮らす子どもたちが安定した教育環境を得にくい状況が続いています。家庭の多くは非熟練労働に従事しており、収入は不安定で、学費や教材の購入が大きな負担となっています。また、住民登録がない家庭では学校の入学手続きが円滑に進まない場合もあります。
そのため、教育機会を確保するには学費支援にとどまらず、学習環境の整備や生活支援、心理面へのフォローなど、複合的な取り組みが求められます。日本企業や国際団体は、地域学習センターの運営や奨学金制度の導入を通じて、子どもたちの学びを継続的に支える体制づくりを進めています。
事例①:いすゞベトナム―Lang Tre Em SOSの長期奨学金支援

いすゞベトナム(ISUZU Vietnam)は、日本の商用車メーカーいすゞのベトナム法人です。同社はCSR活動の一環として、ホーチミン市をはじめとする各地の「SOS子どもの村/Lang Tre Em SOS」において奨学金支援を実施しています。これらの施設では、家庭環境に恵まれない子どもたちが生活しており、教育機会の継続が重要な課題となっています。
同社は奨学金授与を通じて、子どもたちの学業継続を後押しするとともに、地域社会への長期的な貢献を目指しています。企業活動と社会貢献を両立させる取り組みとして、安定的な教育支援の一例といえます。
参考リンク
- 「いすゞベトナム」 公式サイト:Scholarship Award to SOS Children’s Village
事例②:CapitaLand Hope Foundation ― 都市貧困地域の子どもたちへの教育支援
CapitaLand Hope Foundation(キャピタランド・ホープ・ファウンデーション、CHF)は、シンガポール大手不動産グループCapitaLandの社会貢献財団として、ベトナムの都市貧困地域における教育支援を継続しています。同社のベトナム支社CapitaLand Development Vietnam(キャピタランド・デベロップメント・ベトナム)と連携し、2007年から学校施設の改修や学習環境の整備を進め、安全で学びやすい場の提供に取り組んできました。
同財団は、学用品の配布や奨学金、給食支援を行う「マイスクールバッグ/My Schoolbag」や「キャピタランド・キッズ・プログラム/CapitaLand Kids Programme」を通じて、子ども一人ひとりの教育アクセス向上を支えています。また、学校施設の改修や学習環境の整備を行う「キャピタランド・ホープ・スクール・プログラム/CapitaLand Hope School Programme」により、子どもたちが安全で学びやすい環境づくりにも取り組んでいます。スラム街を含む都市部の貧困層にとって、こうした多面的な支援は学業の継続を支える重要な役割を果たしています。
またCHFは、ベトナムの子どもや若者の支援に取り組む国際的な慈善団体「ブルー・ドラゴン・チルドレンズ・ファウンデーション/Blue Dragon Children’s Foundation」と協力することで、教育機会の拡大や自立支援にも寄与しています。
参考リンク
- 「CapitaLand Hope Foundation」公式サイト:Our Efforts in Vietnam
事例③:SCG Vietnam ― 「Sharing The Dream Scholarship」による学習継続支援

SCG Vietnam(エスシージー・ベトナム)は、タイの素材・建材企業グループSCGのベトナム法人であり、アジア地域で展開するCSR活動の一環として「シェアリング・ザ・ドリーム・スカラーシップ/Sharing The Dream Scholarship」を運営しています。ベトナムでは中高生や大学生を対象に毎年多数の奨学金を提供しており、応募者には都市部の低所得家庭やスラム街出身の学生も含まれています。
奨学金は学費の補助に加えて生活費支援やキャリア形成ワークショップも用意されており、学業継続と将来の進路形成を支える仕組みが特徴です。また、現地企業との連携によりインターンシップ機会が提供されるなど、教育と就労をつなぐ取り組みとして評価されています。
参考リンク
・「SCG Vietnam」公式サイト:Sharing The Dream Scholarship
地域連携が生み出す持続的な教育支援
教育支援を継続的に進めるためには、企業、行政、教育機関、地域団体による多角的な連携が不可欠です。企業や財団が資金・奨学金を供給するだけでなく、地方行政が就学手続きや住民登録といった制度面も調整することで、経済的・制度的な障壁を同時に解消する体制が整えられています。さらに、学校側が学習進捗を管理し、NGO等の地域団体が放課後の学習指導やメンタリングを担うといった、明確な役割分担による支援ネットワークが構築されています。
また、支援団体間で定期的な情報共有を行うことで、各家庭の状況に応じた柔軟な支援の調整が可能となり、支援の重複や漏れを最小限に抑える動きも見られます。こうした連携により、金銭的援助に生活・心理的サポートを掛け合わせた包括的アプローチが実現し、地域全体で子どもたちの学びを支える持続可能な仕組みが形成されつつあります。
まとめ:学びの継続が貧困の連鎖を断ち切る

奨学金を中心とした教育支援は、貧困地域に暮らす子どもたちに将来の選択肢を広げる重要な手段です。いすゞベトナム、CapitaLand Hope Foundation、SCG Vietnamの取り組みは、学業継続と生活基盤の安定に寄与しており、地域社会にとって欠かせない役割を果たしています。
今後は、教育・生活・就労を組み合わせた包括的な支援をさらに推進することで、子どもたちが安心して学び続けられる環境が広がり、貧困の連鎖を断ち切る持続的なモデルとして定着していくことが期待されます。
