スマートフォンやSNSの普及によって、インターネットはベトナムの子どもたちの日常に深く入り込んでいます。勉強に必要な情報を調べたり、友人と交流したりするなど、ネットは学びやコミュニケーションを支える身近な存在です。
一方で、ネットいじめや不適切な接触、詐欺、偽情報など、子どもがオンライン上で直面するリスクも広がっています。こうした危険について子どもに教えることは必要ですが、本人の注意だけでは対応が難しい場合もあります。
ベトナムでは現在、子どもや保護者への注意喚起に加え、政府、学校、家庭、企業がそれぞれの立場から安全なデジタル環境を整える取り組みが進んでいます。本記事では、子どもを取り巻くネット環境と3つのリスクを整理し、ベトナムで進む具体的な取り組みから、これからの青少年教育に必要な視点を考えます。
目次
SNSの危険から子どもを守る必要性の高まり

国連児童基金(UNICEF/ユニセフ)によると、子どもの性的搾取の根絶に取り組む国際NGOであるECPAT(エスパット)、国際刑事警察機構(INTERPOL/インターポール)、そして同機関が2022年に共同で実施した調査では、ベトナムの12~17歳の89%がインターネットを利用していました。14~15歳では93%に達しており、ネットは多くの子どもにとって日常生活の一部になっています。
利用が広がる一方で、オンライン上では相手の身元がわかりにくく、投稿した情報が想定以上に広がることもあります。また、子どもが利用するサービスや流行は短期間で変化するため、保護者がすべてを把握することも容易ではありません。
さらに、問題が起きた後にどこへ相談すればよいか分からない若者もいます。UNICEFが展開する若者向けデジタル参加プラットフォームであるU-Report(ユーリポート)の調査では、ベトナムから参加した若者の75%は利用できる相談窓口やサービスを知らないと答えました。この調査は若者全体を代表する統計ではありませんが、安全な利用方法とともに、相談できる環境を整える必要性を示しています。
SNS・インターネット利用が日常になった子どもたち

インターネットは、子どもに危険だけをもたらすものではありません。学習に必要な情報を探したり、家族や友人とつながったり、新しい知識や関心に触れたりする機会も生み出しています。同機関も、オンライン環境が子どもの学習や人とのつながりに多くの可能性をもたらすとしています。
そのため、利用を制限するだけでなく、安全な使い方を学ぶ視点も重要になります。保護者にとっても、新しいサービスや機能をすべて理解し、常に子どもの利用状況を把握することには限界があります。
子どものネット利用を考える際には、本人の使い方だけでなく、家庭や学校を含む周囲の環境にも目を向ける必要があります。
SNSで子どもが直面する3つのリスク
SNSには、子ども自身の注意だけでは避けにくい危険もあります。ここでは、ベトナムの子どもを取り巻く主な3つのリスクを見ていきます。
1.オンライン上の不適切な接触・誘導
SNSやゲームなどでは、知らない相手とかんたんにつながれるため、子どもが不適切な接触や誘導を受ける可能性があります。相手が友人のように振る舞う場合もあり、子ども自身が早い段階でリスクに気づくことが難しいケースもあります。同機関も、デジタル環境の普及にともない、子どもの安全を守る仕組みを強化する必要性を指摘しています。
そのため、家庭や学校では危険な接触の特徴を伝え、違和感を覚えた段階で周囲に知らせられるようにしておくことが重要です。
2.サイバーいじめ・誹謗中傷
SNSでは、悪口や仲間外れ、本人の許可を得ない写真の共有などがサイバーいじめにつながることがあります。ネット上の情報は短時間で広がり、一度共有されると本人だけで止めることが難しい点が特徴です。
こうした問題に対しては、子どもに我慢させるのではなく、信頼できる大人に相談し、必要に応じてサービス上で報告する方法を教えることが重要です。
デジタルリテラシーには、危険を避ける知識だけでなく、問題が起きた際にどう対応するかを知ることも含まれます。助けを求めてよいと理解できることが、子どもの安心につながります。
3.詐欺・偽情報・不適切なコンテンツ
ネット上では、子どもや若者を対象とした詐欺や、不確かな情報への接触も課題となっています。2025年にはベトナム公安省も、SNSを利用する若者を狙ったネット上の犯罪に注意を呼びかけ、学校で安全な利用方法を学ぶ活動を実施しました。
また、SNSでは利用者が自ら探していなくても、推薦機能などを通じて年齢に適さない情報が表示される場合があります。そのため、情報の発信元を確認する、すぐに信じず別の情報と照らし合わせるといった力を育てることが必要です。
同時に、すべてを子どもの判断に任せるのではなく、サービス提供者が年齢に応じた警告やフィルタリングなどを整備することも重要です。2025年に策定されたベトナムの行動規範でも、サービス事業者に対し、内容の確認やフィルタリング、警告などの仕組みを整えることが示されています。
ベトナムで進む「デジタル時代の子ども保護」3つの取り組み

こうしたリスクに対し、ベトナムでは制度、啓発、教育の各面から子どもを守る取り組みが進んでいます。ここでは、その代表的な3つの事例を紹介します。
1.国家プログラム ― 子どもの安全確保とデジタル社会での育成
2026年3月23日、ベトナム政府は、「2026~2030年期のインターネット環境における子どもの保護・発達支援プログラム」を承認する首相決定第468号/QD-TTgを公布しました。同プログラムは、オンライン上のリスクから子どもを保護するとともに、デジタル環境における健全な発達や能力向上を支援することを目的としています。
この動きは、ベトナムが2021~2025年に進めてきたオンライン子ども保護の取り組みを次の段階へ進めるものです。2026年8月には、司法省とUNICEFが法律や政策を実際の保護につなげるための対話を開き、制度の改善だけでなく、現場での実施を強化する必要性について議論しました。
同プログラムは、子どもの安全確保とデジタル能力の育成を一体的に進める点に特徴があります。
2.啓発キャンペーン ― 孤立を防ぐ「Khong Mot Minh」
2025年には、「Khong Mot Minh(ひとりじゃない)」キャンペーンが全国で展開されました。国際連合薬物犯罪事務所(UNODC)やUNICEF、ベトナム公安省、教育訓練省などが関わり、ネット上の詐欺や心理的な操作などから子ども・若者を守るための啓発や教育が行われています。開始から1カ月足らずで全国2,000校以上が参加し、ネット上では5億回を超える接触につながったと公安省は発表しています。
活動はオンラインで情報を発信するだけではなく、学校現場にも広がりました。例えばディエンビエン省では、約2,000人の生徒や教職員が参加し、ネット詐欺の手口、個人情報を守る方法、不審な連絡を受けた際の対応などについて学んでいます。
この取り組みの特徴の一つは、危険への注意喚起に加え、周囲への相談を重視している点です。「Khong Mot Minh」という名称が示すように、問題に遭遇したときに一人で抱え込まず、家族や教師など周囲につながることを重視しています。危険を見極める力に加え、必要なときに周囲へ相談する力を育てる取り組みとも捉えられます。
3.学校・家庭 ― 親子で学ぶデジタルリテラシーの向上
2025年1月、ベトナム情報通信省は決定88/QĐ-BTTTTにより「ネット環境における子ども保護の行動規範」を策定しました。この規範は、子どもだけでなく、保護者や教師、利用者、企業、サービス提供者など5つの主体を対象としています。
保護者や教師には、子どもの話を聞き、ネット上のリスクや安全対策について学び、必要なときに支えることが示されています。また、学校教育の中にもオンライン上の子ども保護を取り入れることが求められています。
この規範からは、保護者が一方的に管理するだけでなく、親子でデジタル環境について学ぶという考え方も読み取れます。新しいサービスについて子どもから学びながら、保護者は情報の見極め方や相談することの大切さを伝えるなど、家庭の中で一緒に安全な使い方を考えることができます。同機関も、家庭全体で健全なデジタル環境をつくることを勧めています。
3つの取り組みから見える解決の方向性
3つの取り組みから見えてくるのは、子どものオンライン安全を一つの対策だけで守ろうとしていないことです。制度、サービス、技術、家庭・学校がそれぞれの役割を担い、複数の側面から子どもを支える方向へ対策が広がっています。2025年の行動規範でも、保護者や教師だけでなく、企業やプラットフォームを含めた幅広い主体の責任が示されています。
| 子どもを支える層 | 主な役割 |
|---|---|
| 法制度 | 子どもの権利やプライバシーを守る |
| 企業・サービス | 年齢に配慮したサービスや安全対策を整える |
| 技術 | 不適切な情報の検知、警告、フィルタリングなどを行う |
| 家庭・学校 | 情報を見極め、困ったときに相談できる力を育てる |
重要なのは、子どもの安全に使う力と、社会の安全に使える環境を同時に育てることです。子どもと保護者が注意していても、利用するサービスそのものに十分な安全対策がなければ、個人の努力だけには限界があります。そのため、安全なサービス設計や教育、相談支援を組み合わせることが必要です。
そして、子どもを守ることは、ネットから遠ざけることと同じではありません。インターネットは学びや交流だけでなく、必要な情報や支援につながる場所でもあります。これからの青少年教育には、危険から守ることと、人や情報と安全につながることを両立させる視点が求められます。
まとめ
子ども自身がネット上の危険を知り、安全に利用する力を身につけることは必要です。しかし、サービスや技術が変化し続けるなか、すべてのリスクを子どもや保護者だけで判断することには限界があります。ベトナムでは、制度、啓発、教育を組み合わせながら、子どものオンライン安全を支える取り組みが進んでいます。
インターネットは危険が存在する一方で、子どもが学び、人とつながるための重要な場所でもあります。これから問われるのは、子ども自身に気をつけるよう求めるだけでなく、社会の側が、子どもが安全に使える環境をどうつくるのかということです。子どもの力を育てながら、それを支える環境も整えることが、デジタル時代の青少年教育に求められています。