都市部で暮らしていると、森や里山の保全は遠い地域の課題のように感じられるかもしれません。しかし、都市の近くにも、雑木林、田んぼ、湿地、草地などが残る里山があります。こうした場所は、地域の景観や生物多様性を支えるだけでなく、人が自然と関わる大切な場でもあります。
一方で、里山は人の手が入ることで維持されてきた環境です。下草刈り、枝払い、落ち葉かき、竹林整備、田んぼの手入れなどが行われなくなると、森が暗くなったり、特定の植物が広がりすぎたり、生きもののすみかが失われたりすることがあります。里山を守るには、地域の人だけでなく、都市住民や企業、学校、ボランティアなど、多様な人の参加が必要です。
本記事では、都市住民が参加できる里山保全・森林保全の取り組みとして、公益財団法人トトロのふるさと基金、認定NPO法人JUON NETWORK、東京都の保全地域体験プログラム「里山へGO!」の3事例を紹介します。森を再生し、次世代へつなぐために、どのようなボランティア参加の形が広がっているのかを見ていきます。
目次
里山保全が求められる背景

里山は、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落、農地、ため池、二次林、草原などが組み合わさった地域です。人が薪や炭、落ち葉、農地などを利用しながら暮らしてきたことで、多様な環境が保たれてきました。
しかし、生活様式の変化や農林業の担い手不足により、里山に人の手が入りにくくなっています。かつて利用されていた雑木林や田んぼが放置されると、光が地面まで届きにくくなり、草花や昆虫、鳥などの生息環境が変化します。竹林の拡大や外来植物の増加、獣害の発生など、地域によってさまざまな課題も生じています。
里山は、生物多様性の保全だけでなく、水源かん養、土砂災害の防止、良好な景観、自然体験、地域文化の継承など、多面的な役割を持っています。都市住民にとっても、里山は自然にふれ、環境について学び、地域とつながる場になります。
そのため、近年は市民ボランティア、NPO、企業、行政、学校などが連携し、森や里山を守る活動が各地で行われています。専門的な林業経験がなくても、体験プログラムや初心者向けの講座を通じて、保全活動に参加できる機会が広がっています。
都市住民が参加する里山保全の役割
里山保全における都市住民の参加は、単に人手を増やすだけではありません。都市に暮らす人が里山の現場を訪れ、森の手入れや自然観察、田んぼ作業などを体験することで、暮らしと自然のつながりを実感できます。
たとえば、下草刈りや落ち葉かきは、森を明るくし、多様な植物が育つ環境を整える作業です。竹の伐採は、竹林が広がりすぎて他の植物の生育を妨げることを防ぐために行われます。田んぼや湿地の手入れは、水辺にすむ生きものを守ることにもつながります。
こうした作業は、短時間で大きな成果が見えるものばかりではありません。里山保全は、継続的な手入れと観察を積み重ねる活動です。そのため、無理なく参加できる仕組み、初心者が学べる機会、地域の人と都市住民をつなぐ運営体制が重要になります。
また、都市住民の参加は、里山の価値を社会に広げる役割も持っています。現地で体験した人が、森の変化や地域の課題を周囲に伝えることで、寄付、企業連携、教育活動、地域交流など、さまざまな支援につながります。
団体ごとの具体的な取り組み
ここからは、都市住民が参加できる里山保全・森林保全の3つの事例を紹介します。それぞれの活動には、都市近郊の自然を守る取り組み、都市と農山村をつなぐ体験、初心者が参加しやすい保全プログラムという特徴があります。
公益財団法人トトロのふるさと基金

公益財団法人トトロのふるさと基金は、埼玉県と東京都にまたがる狭山丘陵を主なフィールドとして、ナショナル・トラストによる里山保全に取り組む団体です。市民からの寄付などをもとに土地を取得し、「トトロの森」として保全を進めています。
狭山丘陵は、首都圏に残る貴重な里山環境です。雑木林、湿地、谷戸、田んぼなどがあり、多くの生きものが暮らしています。一方で、都市近郊であるため、開発圧力や土地利用の変化、管理不足などの課題もあります。トトロのふるさと基金は、こうした里山を市民の力で守り、次世代へ引き継ぐことを目指しています。
同基金では、ボランティアによる森の手入れも行われています。公式サイトでは、トトロの森のごみ拾い、下草刈り、環境調査、イベントの企画など、さまざまな活動がボランティアの協力によって支えられていると紹介されています。
里山は、放置すれば自然に良い状態が保たれるわけではありません。雑木林では、下草刈りや枝の整理を行うことで、地面に光が届きやすくなり、草花や昆虫がすみやすい環境が整います。湿地や田んぼでは、水の管理や周辺の手入れが、生きもののすみかを守ることにつながります。
トトロのふるさと基金の取り組みは、都市近郊の里山を市民が支える事例です。森を買い取って守るナショナル・トラストと、現場での里山管理を組み合わせることで、開発から守るだけでなく、いきもの豊かな森として維持する活動が続けられています。
都市住民にとって、狭山丘陵のような場所は、自然保護を身近に感じられる貴重なフィールドです。見学やイベントへの参加から始め、関心が深まればボランティアとして森の手入れに関わることもできます。都市の近くに残る里山を守る活動は、自然と暮らしの距離をもう一度近づける取り組みでもあります。
参考リンク
・公益財団法人トトロのふるさと基金 公式サイト
・当法人の活動
・ボランティア募集
認定NPO法人JUON NETWORK
認定NPO法人JUON NETWORKは、都市と農山漁村を結び、森林や農山村での体験・交流・応援の活動を通じて、持続可能な社会づくりに取り組む団体です。大学生協の呼びかけをきっかけに始まった活動で、学生や若手社会人を含む多様な世代が参加している点に特徴があります。
JUON NETWORKの代表的な取り組みの一つが、森づくり体験プログラム「森林の楽校」です。公式サイトでは、日本の森林の問題を頭だけでなく体で感じたい人に向けた森づくり体験プログラムとして紹介されています。
森林の楽校では、地域の森林での作業体験に加えて、地域の人との交流や自然体験が組み合わされています。森林整備を体験するだけでなく、その地域の暮らし、文化、自然の魅力にふれることで、都市と農山村の関係を考える機会になります。
また、JUON NETWORKは「大自然塾」も実施しています。たとえば、多摩の森・大自然塾は、市民が主体となる100年の森づくりを将来へつなぐことを目指し、市民ボランティア、スタッフ、地元住民、山林所有者、協賛団体などの協力によって継続されています。
森林ボランティアに関心があっても、何から始めればよいかわからない人は少なくありません。JUON NETWORKのように、体験プログラムや入門講座、継続的な活動の場が用意されていることは、初めて参加する都市住民にとって大きな入口になります。
里山や森林の課題は、現場を訪れて初めて実感できることがあります。木を伐る、枝を片づける、道を整える、地域の人の話を聞くといった経験を通じて、森を守ることが地域の暮らしや社会のあり方とつながっていることが見えてきます。
JUON NETWORKの取り組みは、都市住民が森づくりを体験し、地域の人と交流しながら、継続的な森林保全へ関わる事例です。単なる作業参加ではなく、都市と農山村をつなぐ学びと交流の場として、森林ボランティアの裾野を広げています。
参考リンク
・認定NPO法人JUON NETWORK 公式サイト
・森林の楽校
・大自然塾
東京都 保全地域体験プログラム「里山へGO!」

保全地域体験プログラム「里山へGO!」は、東京都が実施する、都民が里山保全活動を体験できるプログラムです。東京都生物多様性推進センターの公式サイトでは、都民に緑地保全活動の魅力を体感してもらい、新たなボランティア人材の掘り起こしと定着を図るための取り組みとして紹介されています。
「里山へGO!」の特徴は、未経験者でも参加しやすい体験プログラムとして設計されている点です。稲作体験、下草刈り、竹の伐採、自然観察、クラフト体験など、活動内容は実施場所や季節によって異なります。東京の里山を舞台に、自然にふれながら保全活動の意味を学ぶことができます。
都市部で暮らす人にとって、里山保全は専門的で難しい活動に見えることがあります。しかし、初心者向けのプログラムであれば、道具の使い方や安全面の説明を受けながら参加できます。最初の一歩として、体験型の活動が用意されていることは大きな意味があります。
東京都内にも、横沢入、八王子滝山、多摩東寺方、国分寺姿見の池など、さまざまな保全地域があります。これらの地域では、地元のボランティア団体やNPOなどが、自然環境の保全に取り組んでいます。「里山へGO!」は、都市住民がこうした地域の活動にふれる入口になります。
体験プログラムを通じて、参加者は森や田んぼの手入れがなぜ必要なのかを学びます。たとえば、下草刈りは見た目を整えるためだけではなく、光を必要とする植物を守り、歩道や作業環境を安全に保つ意味もあります。竹の伐採は、竹林の拡大を抑え、周囲の植生を守るために行われます。
また、里山へGO!は、継続的なボランティア参加へつながる導線にもなっています。東京都では、保全地域で活動するボランティア団体やNPOなどが自然の保護と回復に必要な保全活動を行っており、体験をきっかけに、より継続的な関わりへ進むこともできます。
「里山へGO!」の取り組みは、都市の中に残る自然を、都民自身が体験しながら守る事例です。都市住民が身近な地域で自然保全を学び、保全活動に参加する入口として、里山保全の裾野を広げています。
参考リンク
・東京都生物多様性推進センター「里山へGO!」
・里山へGO!イベント情報
・保全地域サポーター
里山保全を続けるために必要な視点
里山保全を継続するためには、単発の作業だけでなく、長期的な視点が必要です。森や田んぼ、湿地は、季節によって状態が変わります。春には草花が芽吹き、夏には草木が伸び、秋には落ち葉が積もり、冬には伐採や整備に適した時期を迎えます。こうした変化を見ながら、継続的に手入れを行うことが大切です。
また、安全管理も欠かせません。森の作業では、刃物やノコギリを使うことがあります。足場が悪い場所や、虫、暑さ、寒さへの備えも必要です。初心者が参加する場合は、主催者の説明をよく聞き、服装や持ち物、作業範囲を守ることが重要です。
さらに、里山保全では、地域の人との関係づくりも大切です。都市住民が参加する場合、現地の自然や文化、土地の歴史を尊重する姿勢が求められます。森は誰かの暮らしや地域の記憶と結びついた場所です。作業だけを目的にするのではなく、地域の人の話を聞き、学びながら関わることが、持続的な活動につながります。
参加の形は一つではありません。現地作業に参加する人、寄付で支える人、イベントに参加して学ぶ人、企業や学校の活動として関わる人、情報発信をする人など、それぞれの立場でできることがあります。里山保全は、多様な関わり方が重なることで続いていきます。
まとめ

里山は、人の暮らしと自然が長く関わり合う中で育まれてきた環境です。都市化や生活様式の変化により、手入れが行き届かなくなった場所もありますが、市民ボランティア、NPO、行政、企業、学校などの参加によって、森を再生し、次世代へつなぐ取り組みが広がっています。
公益財団法人トトロのふるさと基金は、狭山丘陵の里山をナショナル・トラストとボランティア活動によって守っています。認定NPO法人JUON NETWORKは、森林の楽校や大自然塾を通じて、都市住民と農山村をつなぐ森づくり体験を広げています。東京都の「里山へGO!」は、未経験者でも参加しやすい体験プログラムとして、都内の保全地域と都市住民をつないでいます。
森を守る活動は、専門家や地域住民だけのものではありません。都市で暮らす人も、体験プログラムへの参加、ボランティア、寄付、学び、情報発信などを通じて、里山保全に関わることができます。
里山を歩き、手を動かし、地域の人と話すことで、自然は遠い存在ではなく、日々の暮らしとつながっていることに気づきます。都市住民が参加する里山保全プロジェクトは、森を再生するだけでなく、人と自然、人と地域をつなぎ直す取り組みでもあります。
