世界的にプラスチック規制が強化される中、ベトナムが環境配慮型素材の供給拠点として注目を集めています。これまで安価な労働力を背景とした製造業が経済を牽引してきた同国ですが、近年は環境意識の高まりを受け、植物由来の代替素材や生分解性プラスチックの開発・生産に注力する企業が急増しています。これは単なる環境対策にとどまらず、新たな輸出産業としての競争力を高めるエコ産業革命の様相を呈しています。
東南アジア諸国の中でも、ベトナムは海洋プラスチックごみ問題が深刻な課題となっており、政府は2025年までに使い捨てプラスチック製品の使用をゼロにする目標を掲げています。この強力な政策後押しもあり、地場スタートアップや大手製造企業は、ベトナムの豊かな農業資源を活用した革新的な素材開発に乗り出しています。農業廃棄物の有効活用は、農村部の所得向上にも寄与しており、環境対応と経済性の両立を目指す取り組みとして、モデルケースの一つと位置付けられています。
本記事では、ベトナムにおけるプラスチック代替素材の最前線で挑戦を続ける3つの事例を紹介します。サトウキビの搾りかすであるバガスやコーヒーかす、生分解性技術を活用した具体的な取り組みを通じて、同国が目指す持続可能な未来の姿を展望します。

目次
ベトナムの環境課題と代替素材への期待
ベトナムは急速な都市化に伴い、プラスチック消費量が飛躍的に増加しました。しかし、廃棄物管理システムの整備が追いつかず、環境負荷の増大が社会問題となっています。これに対し、政府はサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を急いでおり、特に使い捨てプラスチックに代わる新素材の導入に対して、税制優遇や研究開発支援などの積極的なインセンティブを提供しています。
消費者の意識変化も顕著です。都市部の若年層を中心に、エコフレンドリーな製品を選択する傾向が強まっており、飲食店や小売店でもプラスチック製ストローやカトラリーを廃止する動きが広がっています。このような国内需要の拡大に加え、欧州や北米といった厳しい環境規制を持つ市場への輸出機会を見据え、ベトナム企業は素材の機能性とコスト競争力の両立という難題に挑んでいます。
事例①:Equo ― 農業廃棄物を価値ある製品へ転換

Equo(エクオ)は、ベトナムの豊かな自然資源を最大限に活用し、100%自然由来で堆肥化可能な代替製品を開発する先駆的なスタートアップです。同社は、レモングラス、米、ココナッツ、バガスなど、従来は廃棄されていた農業副産物を原材料として採用しています。これらの素材から作られたストローやカトラリーは、使用後に数カ月で自然分解されるため、環境への残留リスクが極めて低いのが特徴です。
同社の強みは、単に環境に優しいだけでなく、デザイン性と実用性を兼ね備えている点にあります。従来の紙製ストローで課題となっていたふやけやすさを克服し、飲み物の味を損なわない品質を実現しました。また、サプライチェーンの透明性を重視し、現地の農家と直接提携することで、廃棄物に新たな付加価値を与え、農村部の雇用創出と所得向上にも直接的に貢献しています。
現在、Equoの製品はベトナム国内のカフェチェーンのみならず、米国、カナダ、オーストラリアなど世界各国へ輸出されています。プラスチックを排除するだけでなく、地元の資源を活用することで循環型経済を構築する同社のモデルは、環境意識の高い環境配慮型製品への需要が高い国際市場を中心に、採用事例が広がっています。
参考リンク
・「Equo」公式サイト:https://shopequo.com/
事例②:AirX Coffee ― コーヒーかすを活用したプラスチック代替素材の実用化

世界有数のコーヒー生産国であるベトナムでは、抽出後に大量のコーヒーかすが排出されています。AirX Coffee(エアエックス・コーヒー)は、気候変動やプラスチックごみによる環境負荷への問題意識を出発点に、この未活用資源をプラスチック代替素材として活用する取り組みを進めてきました。コーヒーかすは世界的に安定供給が可能な副産物であり、従来は埋立処分されることが多かったことから、原材料の確保と廃棄物削減を同時に実現できる点が評価されています。
同社は、約3年にわたる専門家との研究開発を経て、コーヒーかすを主原料とするバイオコンポジット素材の実用化に成功しました。この素材は、成形加工性や耐久性を備え、カップやカトラリー、ハンガー、家具など幅広い製品に展開されています。石油由来プラスチックの使用量を大幅に削減しながら、製品としての機能性を維持できる点が特長であり、プラスチック代替素材として現実的な選択肢となっています。
現在、AirX Coffeeの製品は50カ国以上で採用されており、EUや米国の厳格な環境・安全規制にも対応しています。USDAやSGS、EUROFINSなどの国際認証を取得し、BPA(ビスフェノールA)や有害な添加物を含まない安全性も確認されています。日常的に排出されるコーヒーかすを工業素材へと転換する同社の取り組みは、循環型経済を前提としたエコ産業が実用段階に入っていることを示す事例といえます。
参考リンク
・「AirX Coffee」公式サイト:https://airxcoffee.com/
事例③:An Phat Holdings ― 東南アジア最大級の生分解性素材生産

ベトナムのプラスチック業界最大手の一つであるAn Phat Holdings(アン・ファット・ホールディングス)は、大規模な投資を通じて生分解性プラスチックの自社生産体制を確立しました。同社は、特定の条件下で微生物によって水と二酸化炭素に分解されるPBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)などの生分解性樹脂ブランド「AnEco(アンエコ)」を展開しています。ハイフォン市に建設された大規模な工場は、東南アジアにおけるグリーン素材供給のハブとしての役割を担っています。
同社の取り組みの特徴は、研究開発から最終製品の製造、さらには廃棄後の堆肥化支援まで、垂直統合型のビジネスモデルを構築している点にあります。高度な技術力を背景に、農業用マルチフィルムや食品包装、レジ袋など、多種多様な産業ニーズに応じた製品群をラインナップしています。これにより、プラスチックが不可欠だった分野において、機能性を維持したまま環境負荷を低減する代替案を提示することに成功しました。
また、OK Compost HOME/INDUSTRIALなどの国際的な認証を積極的に取得することで、欧米市場への参入障壁を取り払い、グローバル企業のOEMパートナーとしての地位を固めています。大手企業が主導するこの大規模なシフトは、ベトナム国内のサプライヤー全体のグリーン化を促す呼び水となっており、産業構造そのものを持続可能な形へと作り替える原動力となっています。
参考リンク
・「An Phat Holdings」公式サイト:https://anphatholdings.vn/en/
エコ素材産業がもたらす雇用と環境の両立
プラスチック代替素材の開発は、環境負荷低減だけでなく、農業・製造業を横断する新たな雇用機会を生み出しています。原料調達から加工、製品化までの工程が国内に集約されることで、地域経済への波及効果も期待されています。
また、国際市場での環境規制強化を背景に、エコ素材は競争力の源泉となりつつあります。ベトナム企業にとっては、環境対応を通じてグローバル市場での存在感を高める好機といえます。
まとめ:素材革命がもたらすベトナムの新たな競争力

ベトナムの経済発展において、プラスチック代替素材への転換は避けて通れない課題であると同時に、世界市場での優位性を確保するための戦略的な好機でもあります。スタートアップの柔軟なアイデアと、大手企業の資本力・技術力が相まって進むこのエコ産業革命は、同国の産業構造をより高度で持続可能なものへと進化させています。
単なる脱プラスチックに留まらず、地域資源を最大限に活用し、新たな雇用と価値を創出するベトナム企業の姿勢は、アジア全体のサステナビリティを牽引する力を持っています。日本との連携を深めながら、環境と成長が共鳴するこの取り組みが定着することで、ベトナムは世界の工場から持続可能な素材の供給源へと、その立ち位置を確固たるものにしていくでしょう。