ベトナムでは都市部を中心にペット文化が広がり、犬や猫を中心とした保護動物に関する情報も、SNSやコミュニティを通じて共有されるようになってきました。一方で、保護活動は救出で完結するものではありません。治療や隔離、回復後の社会化、譲渡先の開拓までを含む継続的なケアが求められ、医療費や人手の負担が重なるにつれ、受け入れ余力は次第に限られていきます。譲渡が滞ると保護期間が長期化し、運営全体のボトルネックになることもあります。
こうした制約に対し、保護動物と人との関わりを施設内に閉じず、来訪をきっかけに支援参加や譲渡へとつなげる形として設計されているのが、レスキューカフェに近い形態の猫カフェ型シェルターです。単に猫と触れ合える場にとどまらず、治療や回復、社会化を前提としたケアの基盤を整えたうえで、活動の持続性と譲渡機会の両立を目指す運営が志向されています。
本記事では、ベトナムで運営されている猫カフェ型シェルターの3事例を通じて、その特徴と現状を紹介します。

目次
保護猫活動が抱える課題と新たな受け皿の必要性
保護猫活動は、医療や衛生、人手、資金、譲渡といった複数の課題が重なりやすい領域です。救出直後は医療対応や隔離が優先され、状態が落ち着いた後も生活環境の整備や社会化、譲渡に向けた調整が欠かせません。保護頭数が増えるほどケアの総量が増え、現場負担が急速に高まりやすくなります。その結果、保護の受け入れが進んでも譲渡が追いつかず、活動の継続性が揺らぐ局面が生じます。
こうした状況への対応として、施設を閉じた空間のまま維持するのではなく、一定のルールのもとで活動を外部に開き、地域社会が関われる形をつくろうとする動きが広がっています。来訪体験が支援や譲渡相談へとつながれば、特定の担い手だけに依存しない運営が可能になり、協力の裾野も広げやすくなります。
取り組みの全体像
猫カフェ型シェルターの特徴は、保護の工程と来訪者の体験を切り離さず、一つの運用として組み立てている点にあります。運営を考えるうえでは、主に次の3点が軸になります。
まず、保護とリハビリを前提とした受け入れ体制です。健康状態の把握や治療、隔離、清掃動線の確保など、衛生と安全の土台が整っていなければ、公開型の運用は不安定になります。猫の状態に応じて、無理なく休息を取れる環境を用意することも重要です。
次に、来訪者の受け入れ設計です。重視されるのは賑わいではなく、猫の福祉を損なわずに継続可能な形に落とし込むことです。人数や時間の調整、触れ合いルールの明確化、ストレスを軽減する空間設計が、施設側の負担と猫への影響を抑えます。
最後に、譲渡と継続的な協力につながる導線づくりです。相談や申請につながる流れを整えると同時に、譲渡に至らない来訪者にも寄付や物資支援など、複数の関わり方を示せるかどうかが、活動の安定性を左右します。
団体ごとの具体的な取り組み
以下では、ベトナムで猫カフェ型シェルターを運営する3団体について、それぞれの取り組みの特徴を見ていきます。
ワグウェル(WagWel)

ホーチミン市の「WagWel」は、来訪者が保護活動に関われる仕組みを取り入れ、来店体験を支援参加につなげるモデルとして展開されています。犬と猫の救護を行うソーシャルエンタープライズとして、救護からケア、譲渡に至る流れをカフェ運営と結びつけた取り組みが行われています。犬と猫で拠点を分けることで、来訪者が保護動物と自然に関われる環境がつくられています。
公開型の運用である以上、動物の状態に応じた接し方や見守りなど、負担を抑えるための配慮は欠かせません。来訪を優先するのではなく、動物福祉を軸に運用を調整できるかどうかが、継続性を左右するポイントになります。
参考リンク
・「WagWel」公式サイト:https://www.wagwelrescue.org/feline
ジャックズキャットカフェ(Jack’s Cat Cafe)

ベトナム中部ホイアンの「Jack’s Cat Cafe」は、非営利団体「ベトナムキャットウェルフェア/Vietnam Cat Welfare」が運営する、保護猫のケアと来訪体験を組み合わせたカフェです。入場料や寄付を通じて得られる収益を、保護猫の日常的な飼育や医療に充てる運営方針を明示し、訪れること自体が活動の継続につながる仕組みが取られています。
カフェ空間は単なる立ち寄り先ではなく、保護猫が日常的に過ごす生活の場として位置づけられており、来訪者は猫の福祉や保護活動について学びながら関わることができます。
来訪は予約制で、少人数での利用を基本とし、猫が落ち着いて過ごせる環境を守ることを前提に運用されています。観光地という立地条件の中でも、関心を一過性で終わらせず、継続的な支援や譲渡相談につなげるための説明や導線づくりが、安定した運営の鍵になります。
参考リンク
・「Jack’s Cat Cafe」公式サイト:https://www.jackscatcafe.com
キャタルチー(Catarchy)

ベトナム中南部ニャチャンの「Catarchy」は、カフェ機能とレスキュー機能を組み合わせ、保護猫の受け入れからケア、譲渡までが地域内で循環する形を目指しています。都市部や観光地に比べ、地方都市では支援者の母数や医療へのアクセスが限られやすく、保護活動を支える拠点そのものが不足しがちです。その中で、地域に受け皿を置くこと自体が、保護や譲渡を支える基盤となっています。
運営面では、保護後のケアや社会化を軸にしながら、来訪者が無理なく関われる関わり方を用意し、支援参加の幅を少しずつ広げようとしています。カフェ機能は来訪体験を提供するためというより、活動を外部に開き、関係人口を増やすための手段として捉えられています。衛生管理や医療対応の方針、触れ合いのルール、譲渡までの流れを整理し、外部に共有できるかどうかが、信頼形成を左右します。
参考リンク
・「Catarchy」公式サイト:https://catarchy.space
活動を安定して回すための運営設計と連携

猫カフェ型シェルターを長く運営するには、日々の判断のよりどころとなる基準を共有しておくことが有効です。医療や衛生に関する最低限の基準、来訪時のルール、譲渡後のフォロー体制、支援金の使い道など、前提が見えるほど支援者は関わりやすくなり、運営も安定しやすくなります。
また、現場の負担を特定の担い手に偏らせないためには、獣医や医療ネットワークをはじめ、地域コミュニティ、企業、教育機関などとの連携が欠かせません。日本との連携を考える場合も、猫カフェ文化そのものを取り入れるというより、ストレス管理や衛生面のオペレーション、来店時のルール、予約や混雑の管理といった運営ノウハウを共有する形が現実的です。重要なのは、見た目を模倣するのではなく、地域の条件に合わせて運用に落とし込むことです。
まとめ
ベトナムの猫カフェ型シェルターは、保護の機能と人が関わる接点を近づけることで、支援参加や譲渡の可能性を高めることを目指す取り組みです。今回取り上げた3事例は、都市部、観光地、地方都市という異なる条件の中で、同じ発想をそれぞれの形に落とし込んでいました。
猫カフェ型という形式は目的ではなく、保護活動を継続的に回すための一つの器にすぎません。今後は、各地域の資源や来訪者層に合わせて運用を調整しながら、それぞれの土地で回る形を育てていくことが、現実的な方向性になります。